外国人を雇用する会社が、通訳費や翻訳料、社会保険労務士への委託料などに使える国の助成金があります。厚生労働省の「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」です。1つの措置を導入するごとに20万円、必須2措置+選択2措置まで導入すれば上限80万円を受け取れます。本記事では2025年4月の改定内容を踏まえ、対象となる5つの就労環境整備措置、受給要件、申請の流れを解説します。
この記事でわかること
- 対象となる5つの就労環境整備措置(必須2+選択3から1つ以上)
- 受給要件と支給額(1制度20万円、上限80万円)
- 申請から支給までの流れ
- 特定技能外国人を雇用している場合の注意点
執筆:株式会社kedomo(登録支援機関・外国人材紹介)
目次
1.人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)とは
「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」(厚生労働省)は、外国人特有の事情に配慮した就労環境の整備に取り組む事業主に対して、その費用の一部を助成する制度です。
外国人労働者は、日本の労働法などへの知識の不足、言語や文化の違いから、労働条件に関するトラブルが生じやすい傾向があります。そこでこの助成金では、雇用労務責任者の選任や就業規則の多言語化など、外国人が安心して働ける職場環境を整える取り組みに対して、支出した経費の一部が補助されます。
対象となるのは、雇用保険被保険者の外国人労働者(特別永住者および在留資格「外交」「公用」の者を除く)を雇用している事業主です。在留資格の種類は問われないため、技術・人文知識・国際業務、特定技能、技能実習、育成就労など、幅広い外国人雇用で活用できます。
2.対象となる5つの就労環境整備の取り組み
対象となる取り組みは次の5つです。イとロの2つは必須で、ハ〜ホのいずれか1つ以上と組み合わせて導入する必要があります。
イ.雇用労務責任者の選任【必須】
外国人労働者の就労環境や相談対応を担当する雇用労務責任者を、事業所ごとに選びます。選んだ人の氏名を事業所の見やすい場所に掲示するなどして、外国人労働者に周知することが必要です。さらに、計画期間中に雇用労務責任者が外国人労働者と1回以上の面談を行い、その結果を書面で残すことも求められます。
雇用労務責任者は専任である必要はなく、人事担当者などが兼任してもかまいません。国籍や就労年数の基準もなく、適任者がいない場合は事業主や役員が就くこともできます。
ロ.就業規則等の多言語化【必須】
就業規則、労働協約、労働条件通知書、雇用契約書のいずれかを、外国人労働者の母国語や、やさしい日本語で記載します。多言語化した就業規則等を、計画期間中に外国人労働者へ周知することが要件です。
やさしい日本語は、難しい言葉を言い換えるなど、相手に配慮した日本語のことです。文化庁の「在留支援のためのやさしい日本語ガイドライン」(文化庁)が表現の参考になります。
社内での日本語コミュニケーションを見直したい場合は、コラム「外国人に通じやすい日本語の話し方」も参考にしてください。
ハ.苦情・相談体制の整備
就業規則または労働協約を変更して、外国人労働者の苦情や相談に応じる体制を新たに定めます。事業所内に相談窓口を置く、外部機関に委託して専用の電話やメールアドレスを開設する、などの形が例として挙げられています。支給申請日まで、この体制を続けて運用していることも要件です。
ただし、特定技能外国人を雇用する事業所と技能実習の監理団体は、この取り組みを選べません。詳しくは「6.特定技能外国人を雇用する場合の注意点」で解説します。
ニ.一時帰国のための休暇制度の整備
外国人労働者が一時帰国を希望したときに、1年に1回以上、連続した5日以上の有給休暇(労働基準法の年次有給休暇とは別のもの)を取れる制度を、就業規則または労働協約に新たに定めます。支給申請日まで、この制度を続けて運用していることが要件です。
ホ.社内マニュアル・標識類等の多言語化
社内マニュアル、安全衛生やハラスメントに関する文書、寄宿舎規則、職場内の標識類などを多言語化し、計画期間中に外国人労働者へ周知します。ロで対象となる就業規則・労働協約・労働条件通知書・雇用契約書は、この取り組みの対象には含まれません。両者は別の文書として扱われます。
3.受給要件
本助成金を受給するには、以下の要件をすべて満たす必要があります。
- 雇用保険の適用事業の事業主であること
- 外国人雇用状況届出を適切に届け出ていること
- 就労環境整備計画の認定を受け、計画期間内に必須2つ+選択1つ以上の取り組みを新たに導入・実施したこと
- 計画期間の初日の6か月前〜計画期間の末日までの間に、事業所の雇用保険被保険者を解雇などしていないこと
- 取り組みの実施後、一定期間の外国人労働者離職率が15%以下であること
- 過去に本助成金を受給している場合、最後の支給決定日の翌日から3年が経過していること
このほか、雇用関係助成金共通の要件もあります。詳しくは「雇用関係助成金共通の要件等」(厚生労働省)を確認してください。
離職率15%以下の算定方法
離職率は、取り組みの実施日の翌日から6か月間(離職率算定期間)の外国人労働者の離職者数を、実施日翌日時点の外国人労働者数で割って算出します。対象は雇用保険一般被保険者の外国人労働者です。
事業所の外国人労働者が2人以上10人以下の場合は、算定期間の離職者が1人以下であれば要件を満たします。また、定年退職、重責解雇、在留期間の上限による帰国などは離職者数に含みません。
4.支給額と対象経費
支給額
2025年4月以降の支給額は、1つの取り組みにつき20万円、上限80万円です。
- 必須2つのみ(イ+ロ):40万円
- 必須2つ+選択1つ:60万円
- 必須2つ+選択2つ:80万円(上限)
選択の取り組み(ハ〜ホ)を2つ組み合わせれば、上限の80万円に届きます。3つすべて導入しても支給額は80万円で頭打ちです。2025年4月の改定で、以前あった「生産性要件」は廃止され、要件を満たせば一律の定額支給となりました。
支給対象経費
計画期間内に取り組みを導入・実施した経費が対象です。外部の機関や専門家に委託した場合は、支払いが完了した次の経費が対象となります。
- 通訳費
- 翻訳機器導入費(雇用労務責任者と外国人労働者の面談に必要なものに限る)
- 翻訳料(社内マニュアル・標識類等を多言語化する経費を含む)
- 弁護士、社会保険労務士などへの委託料(取り組みに要するもの。顧問料は対象外)
- 社内標識類の設置・改修費(外部機関に委託する多言語の標識類に限る)
なお、自社で翻訳する場合など、支給対象経費を支出していなくても助成の対象になります。その場合は、翻訳した就業規則などの成果物を提出して支給申請を行います。社内に多言語対応ができる人材がいる会社にとっては、実費がほぼ発生しなくても20万円単位の支給を受けられる余地があります。
5.申請から支給までの流れ
申請から支給までは、次の流れで進みます。窓口は本社所在地を管轄する都道府県労働局で、ハローワークで受け付けている場合もあります。詳しくは「都道府県労働局所在地案内」(厚生労働省)で確認してください。
ステップ1.就労環境整備計画を作成・提出する
計画期間の初日から1か月前の日までに、就労環境整備計画書(様式第a-1号)を作成して労働局に提出します。計画期間は3か月以上1年以内です。計画書には、導入する取り組みの内容、対象となる外国人労働者の情報、外部委託する場合は見積書などを添えます。様式は「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)申請様式」(厚生労働省)から入手できます。
ステップ2.取り組みを導入・実施する
労働局から認定通知を受け取ったら、計画に沿って取り組みを導入・実施します。計画を提出する前に外部機関へ業務を委託したり、経費の一部または全部を先に支払っていたりすると、支給対象になりません。計画を出してから動き出す順番を守ってください。
ステップ3.離職率算定期間の経過を待つ
取り組みの実施日の翌日から6か月間が離職率算定期間です。この期間の外国人労働者の離職率が15%以下であれば、支給申請の要件を満たします。
ステップ4.支給申請を行う
離職率算定期間の末日の翌日から2か月以内に、支給申請書(様式第a-6号)と必要書類を労働局に提出します。
外国人労働者雇用労務責任者講習を受講し、かつ取り組みの実施日の前日から6か月前までに外国人労働者を解雇などしていない場合は、離職率算定期間の経過を待たずに、取り組みの実施日の翌日から2か月以内に支給申請できる特例があります。講習の詳細は「外国人労働者雇用労務責任者講習」(厚生労働省)で確認できます。
ステップ5.助成金の支給を受ける
労働局の審査を経て助成金が支給されます。審査項目が多いため、支給決定までには相応の期間がかかります。
6.特定技能外国人を雇用する場合の注意点
特定技能外国人を雇用している、または雇用しようとしている事業所には、本助成金を使ううえでの独自の制約があります。
「ハ.苦情・相談体制の整備」は選べない
特定技能外国人を受け入れる企業には、入管法に基づき、1号特定技能外国人支援計画の一環として、相談・苦情への対応体制の整備が義務付けられています。すでに義務となっていることは「新たに導入する取り組み」にあたらないため、本助成金の選択肢からは外れます。
そのため特定技能外国人を雇用する事業所では、選択の取り組みは「ニ.一時帰国のための休暇制度の整備」か「ホ.社内マニュアル・標識類等の多言語化」から選ぶことになります。この2つを両方入れれば、必須2つ+選択2つで上限の80万円に届きます。
技能実習の監理団体(監理団体になる予定の事業所を含む)も、同じ理由で「ハ.苦情・相談体制の整備」を選べません。
自社支援と登録支援機関委託での取扱い
特定技能外国人の支援を自社で行っている会社も、登録支援機関へ全部委託している会社も、本助成金の対象になりえます。ただし、委託先の登録支援機関にすでに苦情・相談体制が整っていても、その体制を本助成金の「ハ」として申請することはできません。
特定技能の支援義務や自社支援の条件について詳しく知りたい方は、コラム「【特定技能】登録支援機関を利用せず、自社で採用をする方法」も参考にしてください。
7.まとめ
- 「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)」は、外国人労働者の就労環境を整える会社に、1つの取り組みにつき20万円・上限80万円を支給する制度です
- 必須は「雇用労務責任者の選任」と「就業規則等の多言語化」の2つで、これに「苦情・相談体制の整備」「一時帰国のための休暇制度」「社内マニュアル・標識類等の多言語化」から1つ以上を組み合わせます
- 申請は、計画作成→労働局認定→取り組みの導入・実施→離職率算定期間(6か月)の経過→支給申請の順で進めます。計画を出す前に経費を支出すると対象外になる点に注意してください
- 特定技能外国人を雇用する事業所は「苦情・相談体制の整備」を選べず、選択肢は「一時帰国休暇制度」と「社内マニュアル・標識類等の多言語化」に限られます
よくある質問
Q.人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)とは何ですか?
A.外国人特有の事情に配慮した就労環境整備に取り組む事業主に対し、1つの取り組みにつき20万円(上限80万円)を支給する厚生労働省の助成金です。 詳しくは「人材確保等支援助成金(外国人労働者就労環境整備助成コース)ガイドブック」(厚生労働省)を確認してください。
Q.支給額はいくらですか?
A.必須2つ(雇用労務責任者の選任、就業規則等の多言語化)の導入で40万円、選択を1つ加えて60万円、選択を2つ加えると上限の80万円です。
Q.技人国や高度人材など、特定技能以外の在留資格で雇用している外国人も対象になりますか?
A.対象になります。 雇用保険被保険者の外国人労働者(特別永住者および在留資格「外交」「公用」の者を除く)であれば、在留資格の種類を問わず対象です。
Q.特定技能外国人を雇用していますが、どの取り組みを選べますか?
A.必須の「雇用労務責任者の選任」「就業規則等の多言語化」に加え、選択は「一時帰国のための休暇制度の整備」「社内マニュアル・標識類等の多言語化」から選びます。 「苦情・相談体制の整備」はすでに法令上の義務のため対象外です。
Q.自社で翻訳した場合でも助成の対象になりますか?
A.対象になります。 外部委託の実費が発生しない場合でも、翻訳した就業規則などの成果物を提出して支給申請を行えます。
Q.申請手続きの窓口はどこですか?
A.本社所在地を管轄する都道府県労働局です。ハローワークで受け付けている場合もあるため、事前に管轄労働局へ問い合わせてください。 申請様式は「人材確保等支援助成金申請様式ダウンロード」(厚生労働省)から入手できます。



