脱退一時金とは、国民年金または厚生年金保険に加入していた外国人が、老齢年金の受給資格を満たさずに帰国する際、一定の条件を満たせば請求できる制度です。
帰国する外国人社員全員が受け取れるわけではありません。老齢年金の受給資格期間がある人や、日本と社会保障協定を結んでいる国の出身者は、脱退一時金を受け取らないほうがよい場合があります。会社としては、退職時に「請求できるか」「必要書類はそろっているか」「税金の還付が必要か」を確認して案内しておくと、本人が判断しやすくなります。
この記事でわかること
- 脱退一時金を請求できる条件(国民年金・厚生年金)
- 請求に必要な書類の一覧
- 請求時のポイントと注意事項(社会保障協定・再入国許可・受給権の喪失など)
- 2026年度版の金額表と計算方法
- 厚生年金の源泉徴収と税金の還付手続き
執筆:株式会社kedomo(登録支援機関・外国人材紹介)
目次
1.外国人も年金保険料を支払わなければいけない
外国人でも、日本に住所がある20歳以上60歳未満の人は、国籍に関係なく国民年金の対象です。会社で厚生年金保険に加入している間だけでなく、入国から厚生年金加入までの期間や、退職して厚生年金の資格を失ったあとの期間も、国民年金の対象になることがあります。参考:「外国籍の従業員を雇用する事業主のみなさまへ」(日本年金機構)
会社が外国人社員を雇用した場合は、日本人社員と同じように厚生年金保険の加入条件を確認し、加入が必要なら資格取得の手続きを行います。退職後に日本に残る人は、国民年金の案内も必要です。外国人を採用した時の保険手続きでは、厚生年金・健康保険・雇用保険それぞれの加入判断について詳しく説明しています。
なお、日本年金機構の資料では、在留資格が「医療滞在」や「観光等を目的とするロングステイ」など一部の特定活動は、国民年金第1号・第3号被保険者の適用除外になると案内されています。参考:「国民年金第1号・第3号被保険者の「適用除外」」(日本年金機構)
2.脱退一時金(国民年金・厚生年金)の受け取り条件
脱退一時金は、帰国する外国人社員であれば誰でも受け取れるものではありません。請求期限、請求先、支給要件の3点をまず確認してください。参考:「脱退一時金の制度」(日本年金機構)
脱退一時金を請求できる期間
請求できるのは、日本に住所を有しなくなった日から2年以内です。資格喪失日に日本に住所があった場合は、その後はじめて日本に住所を有しなくなった日から2年以内で判断します。
出国前に日本から請求書を送ることもできますが、日本年金機構が請求書を受理した日に、まだ日本に住所がある場合は請求できません。住民票の転出予定日以降に届くように送る必要があります。参考:「脱退一時金を請求するにあたって、どのような点に注意すればよいですか。」(日本年金機構)
脱退一時金の請求先
国民年金または厚生年金保険の期間のみであれば、日本年金機構へ請求します。共済組合等の期間がある場合は、加入していた制度や期間によって請求先が変わります。提出方法は郵送または電子申請です。参考:「脱退一時金を請求する方の手続き」(日本年金機構)
受け取れる資格
国民年金と厚生年金保険で細かい表現は少し違いますが、会社がまず確認したい条件は次のとおりです。
- 日本国籍がないこと
- 公的年金制度の被保険者でないこと
- 国民年金は保険料納付済期間等、厚生年金保険は加入期間の合計が6か月以上あること
- 老齢年金の受給資格期間10年を満たしていないこと
- 障害年金や障害手当金などの受給権を有したことがないこと
- 日本国内に住所がないこと
- 請求期限内であること
国民年金では、保険料を一部免除されていた期間も、その種類に応じて月数を合算します。未納期間は要件に入りません。
3.脱退一時金(国民年金・厚生年金)の請求に必要な書類
脱退一時金の請求では、請求書と添付書類をそろえて提出します。代理人が請求する場合は、委任状も必要です。
脱退一時金請求書
日本語と外国語が併記された様式で、英語・中国語・韓国語・ベトナム語・フィリピン語などに対応しています。参考:「脱退一時金に関する手続きをおこなうとき」(日本年金機構)
パスポートの写し
氏名、生年月日、国籍、署名、在留資格が確認できるページの写しが必要です。本人からの請求であることの確認に使われます。
住民票の除票の写し
日本国内に住所を有しないことが確認できる書類が必要です。帰国前に市区町村へ転出届を出している場合は原則不要ですが、2012年7月より前から被保険者である場合など、日本年金機構で住民票の消除情報を確認できないときは提出が必要です。
脱退一時金を振り込む口座がわかるもの
受取先金融機関名、支店名、支店所在地、口座番号、請求者本人名義の口座だと分かる書類が必要です。ゆうちょ銀行と一部のインターネット専業銀行では受け取れません。日本国内の金融機関で受け取る場合は、口座名義がカタカナで登録されている必要があります。
基礎年金番号がわかるもの
基礎年金番号通知書または年金手帳など、基礎年金番号が確認できる書類が必要です。
委任状
本人ではなく代理人が請求する場合に必要です。様式は自由ですが、日本年金機構の掲載様式も使えます。参考:「代理人を通じて、脱退一時金の請求を行うことはできますか。」(日本年金機構)
4.脱退一時金(国民年金・厚生年金)請求のポイントと注意事項
会社が退職時に説明しておきたい点は、請求の可否だけではありません。将来の老齢年金、社会保障協定、税金の還付まで確認が必要です。
委任状があれば代理人でも請求できる
代理人を通じた請求は可能です。返戻書類を代理人あてに送ってほしい場合は、その旨も委任状に書いておきます。なお、日本年金機構は、複数の代理人への委任は行わないよう案内しています。内容確認に時間がかかり、決定が大きく遅れる可能性があるためです。
帰国して2年以上経つと脱退一時金を請求できない
請求期限は2年です。帰国後に考えればよいと後回しにすると、請求できなくなることがあります。担当者は、退職日ではなく「日本に住所を有しなくなった日」で期限を判断します。転出届の提出日と出国日を退職時に確認しておくと、本人への案内がしやすくなります。
外国人社員の帰国前に書類を揃えておくとよい
パスポートの写し、口座確認書類、基礎年金番号がわかる書類は、日本にいる間のほうが集めやすいです。退職後に海外からやり取りすると、時間がかかります。
また、再入国許可やみなし再入国許可で出国する人は注意が必要です。転出届を出したうえで出国する場合は請求できますが、転出届を出さずに再入国許可で出国した場合は、再入国許可の有効期間が経過するまで請求できません。
年金を受け取ったことがある外国人は脱退一時金を受け取れない
障害年金や障害手当金などの受給権を有したことがある人は、脱退一時金を請求できません。実際に振込を受けたかではなく、受給権の有無で判断します。
老齢年金の受給資格期間が10年以上ある外国人は、脱退一時金を受け取ることができない
老齢年金の受給資格期間が10年以上ある人は、将来の老齢年金を受け取れる可能性があるため、脱退一時金の対象外です。さらに、脱退一時金を受け取ると、それ以前の日本の年金加入期間がすべてなくなります。請求前に、将来の年金の可能性を本人に説明しておくことが重要です。
外国人の母国と、母国での年金加入期間によっては、脱退一時金ではなく年金を受け取れる可能性がある
日本は、2025年12月1日時点で24か国との間で社会保障協定が発効しています。このうち、英国・韓国・中国・イタリアは保険料の二重負担防止のみで、加入期間の通算はありません。参考:「社会保障協定」(日本年金機構)
加入期間を通算できる国の出身者は、将来の年金受給権を確保できることがあります。脱退一時金を受け取ると、その期間は協定上の通算にも使えなくなるため、請求前に確認が必要です。参考:「日本の年金支給の特例」(日本年金機構)
支給金額は60か月を上限として計算される
2021年4月以降に保険料納付済期間や被保険者期間がある場合、支給額の計算に使う月数の上限は60か月です。2021年3月以前の期間だけで計算する場合は、36か月が上限です。たとえば8年間加入していても、支給額は60か月分を上限に計算されます。ただし、脱退一時金を受け取ると、60か月を超える分も含めて、それ以前の加入期間はすべてなくなります。
5.脱退一時金(国民年金・厚生年金)の具体的な計算方法や金額
脱退一時金の計算方法は、国民年金と厚生年金保険で異なります。退職時の説明に概算が必要な場合は、以下の表を参考にしてください。
国民年金
国民年金の脱退一時金は、「最後に保険料を納付した月が属する年度の保険料額 × 2分の1 × 支給額計算に用いる数」で計算します。2026年4月から2027年3月の金額は次のとおりです。参考:「国民年金の脱退一時金額」(日本年金機構)
| 保険料納付済期間等の月数 | 支給額 |
|---|---|
| 6か月以上12か月未満 | 53,760円 |
| 12か月以上18か月未満 | 107,520円 |
| 18か月以上24か月未満 | 161,280円 |
| 24か月以上30か月未満 | 215,040円 |
| 30か月以上36か月未満 | 268,800円 |
| 36か月以上42か月未満 | 322,560円 |
| 42か月以上48か月未満 | 376,320円 |
| 48か月以上54か月未満 | 430,080円 |
| 54か月以上60か月未満 | 483,840円 |
| 60か月以上 | 537,600円 |
国民年金の脱退一時金は、源泉徴収されません。
厚生年金
厚生年金保険の脱退一時金は、「被保険者であった期間の平均標準報酬額 × 支給率」で計算します。平均標準報酬額は、2003年4月以後なら標準報酬月額と標準賞与額を合算し、全体の被保険者期間の月数で割って求めます。2021年4月以降が最終月の人の支給率は次のとおりです。
| 被保険者期間 | 支給率 |
|---|---|
| 6か月以上12か月未満 | 0.5 |
| 12か月以上18か月未満 | 1.1 |
| 18か月以上24か月未満 | 1.6 |
| 24か月以上30か月未満 | 2.2 |
| 30か月以上36か月未満 | 2.7 |
| 36か月以上42か月未満 | 3.3 |
| 42か月以上48か月未満 | 3.8 |
| 48か月以上54か月未満 | 4.4 |
| 54か月以上60か月未満 | 4.9 |
| 60か月以上 | 5.5 |
たとえば、平均標準報酬額が25万円で加入期間が24か月以上30か月未満なら、税引前の支給額は55万円です。厚生年金保険の脱退一時金は、非居住者への支給時に20.42%が源泉徴収されます。この例では、振込額の目安は約43万7,690円です。
税金の還付を受けるには
この源泉徴収税額は、退職所得の選択課税により還付を受けられる場合があります。還付を受けるには、帰国前に納税管理人の届出が必要です。参考:「No.1923 海外勤務と納税管理人の選任又は解任」(国税庁)、「退職所得の選択課税の記載例① 出国後受け取った退職金」(国税庁)
6.まとめ
外国人社員の退職時は、社会保険の資格喪失だけでなく、脱退一時金の案内までできると親切です。特に、協定国の出身者、加入期間が長い人、再入国許可で出国する人は、単純に「帰国するなら請求」で判断しないほうがよいです。
このコラムの振り返り
- 脱退一時金は、6か月以上年金に加入していた外国人が帰国時に請求できる制度だが、老齢年金の受給資格(10年)がある人や受給権を持ったことがある人は対象外。
- 請求期限は、日本に住所を有しなくなった日から2年以内。退職時に転出届の提出日と出国日を確認しておく。
- 必要書類は、請求書・パスポートの写し・口座確認書類・基礎年金番号がわかるもの。日本にいる間に揃えておくと後の対応が楽になる。
- 社会保障協定がある国の出身者は、加入期間を通算して将来の年金受給につなげられる場合があるため、請求前に確認が必要。
- 厚生年金保険の脱退一時金は支給時に20.42%が源泉徴収される。還付を受けるには、帰国前に納税管理人の届出が必要。
- 脱退一時金を受け取ると、それ以前の加入期間はすべてなくなる。金額だけでなく、その後の不利益も退職時に説明しておくことが重要。
Q&A
Q1.脱退一時金とは何ですか。
A.日本で6か月以上年金に加入していた外国人が、老齢年金の受給資格を満たさずに帰国する際に請求できる一時金です。 国民年金と厚生年金保険の加入期間に応じて計算されます。
Q2.請求期限はいつまでですか。
A.日本に住所を有しなくなった日から2年以内です。 出国前に書類を送る場合でも、日本年金機構が受理した日に日本に住所があると請求できません。
Q3.厚生年金の脱退一時金には税金がかかりますか。
A.非居住者が受け取る厚生年金保険の脱退一時金は、支給時に20.42%が源泉徴収されます。 帰国前に納税管理人の届出をしておけば、退職所得の選択課税で還付を受けられる場合があります。
Q4.社会保障協定がある国の出身者も請求できますか。
A.請求できる場合はありますが、加入期間を通算して将来の年金受給につなげられることもあります。 脱退一時金を受け取るとその期間は通算に使えなくなるため、請求前に確認が必要です。
Q5.再入国許可で出国する場合も請求できますか。
A.転出届を出したうえで出国する場合は請求できます。 転出届を出さずに再入国許可で出国した場合は、再入国許可の有効期間が経過するまで請求できません。
Q6.請求してから振込までどれくらいかかりますか。
A.日本年金機構は、書類に不備や確認事項がなければ、受付後およそ4か月後に支払うと案内しています。参考:「脱退一時金の請求書を提出したのですが、受取までにどれくらい時間がかかりますか。」(日本年金機構)



